2025年– date –
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空室のはずの部屋
会社の同僚・田島が引っ越したマンションには、ちょっとした曰くがあった。「隣の部屋、ずっと空室なんだってさ」田島がそう言っていたのは、入居してすぐのことだった。駅近で家賃も手頃なその物件。空室があるのは少し不自然にも感じたが、特に気にする... -
おかえりって言ったよね?
会社からの帰りが少し遅くなったある晩、私はマンションのエントランスでエレベーターを待っていた。 深夜0時を過ぎた静まり返ったロビー。誰もいないはずなのに、後ろから「カツ……カツ……」と足音が近づいてくる。 なんとなく振り返れずにいると、耳元で「... -
となりの席の子
中学2年のとき、俺の隣の席には「倉田」という女の子がいた。 無口で、いつも下を向いている。誰とも話さず、教科書だけを静かに眺めていた。クラスでもあまり存在感はなかったけど、なぜか俺とはよく目が合った。 ある日、学校帰りに彼女から声をかけられ... -
母からの電話
俺が大学に入って一人暮らしを始めてから、母はやたらと電話をかけてくるようになった。 用もないのに「元気?」「ちゃんと食べてる?」と何度も連絡してくる。最初はありがたかったが、次第にそれが少し重く感じるようになっていった。 ある日、ゼミの帰... -
通学路の男
中学1年の夏頃のこと。俺が通っていた学校では、通学路に立って生徒に挨拶してくる中年の男がいた。 スーツ姿で、いつも同じ場所に立っている。朝になると「おはよう!」と笑顔で声をかけてくるので、俺も最初は軽く会釈していた。 そのうち、男は俺の名前... -
死んだはずの妹
俺には6つ下の妹がいる。いや、正確には「いた」と書くべきなんだろう。 妹は明るくて活発な子だった。よく笑い、よく泣き、俺にベタベタくっついてくる子どもだった。高校生の俺は少し鬱陶しく思いながらも、妹とよく遊んだ。 だが、小学4年の冬、妹は事... -
無言の客
私は都内の個人経営のカフェでバイトをしている。平日の夜は客も少なく、ほとんどが常連か近所の会社員だった。 ある日、閉店1時間前の午後9時頃、一人の女性客が来店した。30代前半くらい。長い黒髪で、薄いベージュのコートを羽織っていた。印象的だった... -
もう一人の住人
私が住んでいるマンションは、都内にあるいわゆる「ワンルーム」タイプで、学生や独身者が多く暮らしている。その中でも、私の部屋は角部屋で、片隣は空室になっていると聞いていた。 ある日、夜にコンビニから戻ると、隣の部屋の前に誰かが立っていた。暗... -
隣人のカーテンは、なぜ開かないのか?
大学進学を機に、私はある古いアパートへと引っ越した。築40年のその建物は多少の不便はあったものの、駅近で家賃も安く、学生にはありがたい物件だった。 私の部屋は2階の端。隣の部屋には、20代後半くらいの男性が住んでいるらしい。しかし、私はその人... -
古井戸の底から
町外れの空き家にある古井戸には、近づいてはいけない——。そんな噂が昔からあった。誰が最初に言い出したのかは分からないが、町の子どもたちはその空き家を「井戸屋敷」と呼び、遠巻きに眺めていた。 ある夏の終わり、大学のレポート課題として「地域の民... -
音がする部屋
大学進学で上京したばかりの私は、古いアパートの2階に部屋を借りた。安さだけで決めたその物件で、私は“音”のする隣室に出会う。 家具もないままの夜、私は布団を敷いて眠ろうとした。すると、隣の空き部屋から「コツ……コツ……」と何かが床を叩く音がする... -
深夜2時の来訪者
一人暮らしを始めて3ヶ月ほど経った頃、私は妙な気配に悩まされるようになった。23区内とはいえ築40年を超える古い木造アパートで、隣室との壁も薄く、夜になると家鳴りがよく響いた。 けれど、ある夜を境に、「気配」の質が変わった。深夜2時ちょうど。決...