2025年6月– date –
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留守番電話の声
一人暮らしを始めてから半年ほど経った頃。ある日、携帯に着信履歴が残っていた。非通知だったが、なぜか気になって留守番電話を再生してみた。 「……たすけて……たすけて……」 かすれた女性の声だった。聞き取れるのはその一言だけで、あとは何かを擦るよう... -
誰もいないはずの隣室
仕事の都合で、都内のウィークリーマンションを借りた。築年数はそれなりだが、内装はきれいで、駅からも近い。1Kのシンプルな間取りで、左右の部屋との距離もそれほど近くない。騒音の心配もないと思っていた。 だが、初日の夜。隣の部屋から、かすかな物... -
風鈴の鳴る夜
夏の夜、祖母の家に泊まりに行ったときのことだった。 その家は山あいの集落にあり、木造で、年季の入った建物だった。昼間は蝉の声が響き、のどかな雰囲気が漂っていたが、夜になると一変する。虫の声以外、何も聞こえない静寂の中、風の音だけが妙に耳に... -
忘れられたカメラ
実家の物置を整理していたときのことだ。埃をかぶった段ボールの中から、古いデジタルカメラが出てきた。僕が中学生のころに買ってもらったものだ。 懐かしくなって電源を入れてみたが、バッテリーが切れていた。充電器も見つかったので、久しぶりに動かし... -
見知らぬ名前の表札
大学2年の春、格安のシェアハウスに引っ越した。築年数は古いが、広いリビングと共用のキッチン、各自の個室がある造りで、住人は全部で5人。初対面ながら皆気さくで、すぐに打ち解けた。 ただ、ひとつだけ奇妙なことがあった。 その家には「使われていな... -
見知らぬ名前の表札
就職して3年目の春、会社の近くに引っ越した。 内見のときから、どこか薄気味悪さを感じてはいたが、家賃の安さと立地に惹かれ、深く考えずに契約した。 引っ越し当日、玄関の表札に気づいた。「佐々木」と書かれていた。 前の住人のものかと思い、不動産... -
引っ越し祝い
会社の異動で、少し田舎の町に引っ越した。 とはいえ、自然が多く、家賃も安くて広い。職場からも近く、環境としては申し分なかった。 引っ越し初日の夜、インターホンが鳴いた。出ると、見知らぬ女性が立っていた。年の頃は40代後半、地味な服装で、どこ... -
隣人のメモ
大学進学を機に、一人暮らしを始めた。 築年数は古いが広めのワンルームで、家賃も格安だった。駅からも徒歩5分。条件は文句なしだったが、ひとつだけ気になることがあった。 隣の部屋の住人が、異様に静かだったのだ。 物音ひとつしない。ドアの開閉音す... -
鏡に映る女の怪談
高校時代の話だ。 部活動の関係で、僕は毎日遅くまで学校に残っていた。ある日、終電近くの時間に校舎のトイレを使った。深夜の学校というだけで不気味なのに、僕が入ったのは“旧校舎”のトイレだった。 そこは、何年も前に取り壊される予定だったが、予算... -
一人暮らし
大学進学を機に、念願の一人暮らしを始めた。古いけど広めのワンルームで、家賃も安い。何より「完全に一人になれる」ことが何よりの魅力だった。 最初のうちは少し寂しさもあったけど、慣れてくるとむしろ快適。誰にも気を使わず、夜中まで動画を観たり、... -
隣人のノート
引っ越してきたのは、3階建てアパートの2階の角部屋だった。家賃も安く、駅からも近い。唯一の不安は、両隣にどんな人が住んでいるかわからないことだった。 右隣の部屋には40代くらいの男性が住んでいるようだった。顔を合わせたのは引っ越し初日の挨拶く... -
廃トンネルの声
大学の夏休み、友人4人と肝試しに行くことになった。目的地は地元でも有名な心霊スポット、「〇〇峠の廃トンネル」。20年以上前に土砂崩れで通行止めになった古いトンネルで、事故や自殺が多発したと言われている。 深夜1時、私たちは懐中電灯を手に、その...