2025年6月– date –
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母からのLINE
大学進学で一人暮らしを始めてからというもの、実家の母とはよくLINEでやり取りをしている。母はスマホに詳しくないくせに、頑張ってスタンプを送ってきたり、写真を送ってきたりと、少し過保護気味なところもあるが、それもどこか微笑ましかった。 その日... -
となりの住人
アパートで一人暮らしを始めて、3ヶ月が経った頃だった。築年数は古いが、駅近で家賃も安く、最上階の角部屋ということで、静かに暮らせるのが気に入っていた。 ただ一つだけ、気になることがあった。隣の部屋に住む人の姿を、一度も見たことがないのだ。 ... -
最後のチャイム
私が通っていた中学校には、妙な噂があった。 ──夜の9時に、校舎のチャイムが鳴る。 もちろんそんな時間に授業はないし、校内には誰もいない。でも、確かにチャイムの音だけが響くという。 私は当時、その話を半信半疑で聞いていた。しかし、ある日、実際... -
鍵を開けたのは、私じゃない
都内の1Kマンションに引っ越してきたのは、仕事の都合だった。職場まで徒歩15分という立地に惹かれて決めた物件は、築20年だが小綺麗で、オートロックもついている。家賃も手頃で、特に問題はなかった。 最初の異変は、引っ越してから3日目の夜に起こった... -
お父さんの写真
小学4年生の娘がいる。名前は美咲(みさき)。少し人見知りだが、家では明るく、よく笑う子だ。 ある日、娘が小学校から帰ってくるなり、嬉しそうに話しかけてきた。 「ねえパパ、学校の図工で“家族の絵”を描いたんだよ!」 「へぇ、どんなの?」 「ママと... -
ただの通行人
ある日曜の午後、近所の公園を散歩していたときのことだ。その公園は小さな池と遊具があるだけの、のどかな場所で、私は休日になると読書をしに訪れるのが習慣だった。 その日も、ベンチに腰掛けて本を読んでいた。30分ほどたった頃、ふと視線を感じて顔を... -
帰ってきた足音
私は都内の古いアパートで一人暮らしをしている。築年数は古いが、駅から近く家賃も手頃だったので、入居を決めた。ただひとつ、少し気になっていたのが、隣室がずっと空き部屋のままだということだった。 大家に聞いたところ、「前の住人が急に出て行って... -
おやすみの一言
高校生の妹がいる。俺とは5歳離れていて、普段はそれほど会話をしない。妹はおとなしく、読書が好きなタイプで、スマホよりも文庫本を手にしている時間のほうが多い。 そんな妹が、ある晩、リビングで急に話しかけてきた。 「お兄ちゃん、寝る前に『おやす... -
古道に立つ女
私は長野県の山間にある、小さな村で生まれ育った。今ではすっかり過疎化が進んで、私の実家も空き家となって久しい。 ある年の秋、父が亡くなったのをきっかけに、私は何年ぶりかにその村を訪れることになった。父の遺品整理のため、ひとりで数日間滞在す... -
忘れ物
私は都内の中学校で事務員として働いている。教師ではないが、職員室の片隅に机があり、生徒や先生と日々顔を合わせる。 ある日、3年生のクラス担任の先生が、卒業式の準備で忙しそうにしていた。校内は年度末でバタバタしており、事務作業も山のようにあ... -
鍵の合う部屋
大学に入学してすぐ、一人暮らしを始めた。 家賃を抑えるため、古いけれど駅に近いアパートを選んだ。築40年のその建物は木造で、2階建て。私は1階の101号室に住んでいた。 引っ越し当初、特に問題はなかった。隣の部屋(102号室)には誰か住んでいるらし... -
井戸の声
祖父が亡くなったのは、私が中学2年の夏だった。葬式が終わったあと、祖母が一人で住んでいる山奥の家に、両親と一緒に手伝いに行った。 その家には、昔から使われていない古い井戸がある。 庭の片隅にぽつんと佇む井戸。木の蓋がされていて、苔がびっしり...