2025年6月– date –
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もう一人のお父さん
娘が「保育園で描いたんだ〜」と、小さなスケッチブックを嬉しそうに見せてきた。 表紙には「いえでの いちにち」と書かれている。いわゆる、“家族の一日”をテーマにした絵日記らしい。 ページをめくると、色鉛筆で描かれた家族の絵が出てきた。 1ページ目... -
静かな部屋
転職を機に一人暮らしを始めた。会社から徒歩10分ほどの築浅マンションで、立地のわりに家賃も安く、内見のときもとても静かだった。壁も厚く、防音もしっかりしている。 ……と、思っていた。 入居して数日後、夜に家でくつろいでいると、壁の向こうからか... -
見上げている窓
学生時代、私は東京郊外の古いアパートに住んでいた。築30年以上の2階建てで、私の部屋は1階の一番奥、日当たりの悪い角部屋だった。 隣室もほとんど空き部屋で、全体的に寂れた雰囲気があった。けれど家賃が格安だったため、特に気にせず住んでいた。 あ... -
2つ目のランドセル
小学1年生の娘を持つ父親です。妻と3人で静かに暮らしており、娘の学校生活にもようやく慣れてきた様子で、毎日元気に登校しています。 朝は私が仕事で早いため、娘の登校は主に妻に任せています。夜はできる限り早く帰宅して、夕食を一緒に取るようにして... -
不在票
引っ越してきて1ヶ月ほどが経った頃。その日も普通に仕事を終えて、夜8時すぎに帰宅した。 玄関を開けると、ドアポストに不在票が入っていた。 『◯月◯日 18:40 ご不在のため持ち帰りました』 宅配便だった。 特に注文した覚えはなかったが、名前と住所は... -
踏切の向こう
私の地元には、昔から“出る”と噂される踏切がある。最寄駅から住宅街へ続く一本道にぽつんとある、遮断機のない小さな踏切だ。 電車は単線で、日中でも通る本数は少ない。だがその場所では、何度も人身事故が起きていて、地元では「夜は通るな」と言われて... -
つながった通話
大学時代の友人に、妙な男がいた。 斉藤という男で、特別変わったところはないのだが、「通話が苦手」だと常に言っていた。LINEのやり取りは普通にするし、会えばよく喋る。けれど、電話になると絶対に出ない。こちらからかけても折り返してこないし、「用... -
見守りカメラ
高齢の祖母が一人暮らしをしていた。最近足腰が弱くなってきたこともあり、家族の提案で「見守りカメラ」を設置することになった。 居間の隅に小さなカメラを設置し、スマホでリアルタイム映像を確認できるようにした。通知設定をオンにすれば、「動きがあ... -
赤い傘の女
当時、私は郊外の営業所で働いていた。朝は早く、夜は遅い。帰りが終電近くになることもしばしばだった。 ある雨の夜のこと。会社を出たときには土砂降りになっていて、傘を持っていなかった私は最寄りのコンビニでビニール傘を買った。 駅までの道を歩い... -
家にいるの、誰?
大学の夏休み、久しぶりに実家に帰った。両親は旅行中で、家には俺ひとり。高校まで過ごした懐かしい部屋で、のんびりする時間は悪くなかった。 2日目の夜。シャワーを浴びたあと、リビングでジュースを飲んでいると、2階からドタドタと足音が聞こえた。 ... -
上の階の足音
一人暮らしを始めて半年ほどが経った頃の話だ。都内の築浅マンションで、セキュリティもオートロックもしっかりしていて、特に不満もなく暮らしていた。 ただ、少しだけ気になることがあった。夜になると、上の階から足音が聞こえるのだ。 ドタドタと歩く... -
白い手すり
大学時代の春休み、友人3人と一緒に、郊外の古い旅館へ泊まりに行ったことがある。温泉付きで格安ということで選んだのだが、現地に着いたとき、私は少しだけ後悔した。 旅館は山の中腹にあり、かなり年季が入っていた。建物の外壁はくすんでひび割れてお...