2025年6月– date –
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手紙の送り主
ある日、ポストに手紙が届いていた。差出人は不明。消印もない。 宛名は俺のフルネームで、明らかに手書きだった。中を開けてみると、紙にびっしりと文章が書かれていた。 『あなたをずっと見ていました。笑った顔も、泣いた夜も、眠っているときも。あな... -
駅で待っていた男
会社帰り、いつものように夜10時過ぎの電車に乗った。駅のホームはほとんど人がいなくて、電車もがらがらだった。 俺はつり革に掴まりながら、スマホでニュースを見ていた。 ある駅で乗客が1人乗ってきた。スーツ姿の中年男。顔はよく見えなかったが、やけ... -
三階の窓
俺が中学生のころに通っていた学校は、戦後すぐに建てられた古い校舎で、ところどころにヒビが入っていたり、床が軋んだりしていた。 中でも不気味だったのが、旧校舎の三階。普段は使用されていないが、美術準備室だけがそのフロアにあり、授業のたびに誰... -
おじいちゃんの話
祖父が亡くなったのは、俺が小学校6年生の夏だった。その年は特に暑く、蝉の鳴き声がやけにうるさかったのを覚えている。 祖父は昔から無口な人で、よく縁側に座って外を見ていた。俺はそんな祖父が少し怖かったが、たまに話してくれる昔話はどこか不思議... -
鍵が開いていた部屋
大学1年の春、俺は学生寮ではなく、少し離れた安アパートを借りて一人暮らしを始めた。築40年近いボロアパートで、家賃は格安だったが、防音性はほぼ皆無だった。 隣室の目覚ましが聞こえるほどで、最初はうるさく感じていたものの、だんだんと慣れていっ... -
夜中に鳴るインターホン
俺が一人暮らしを始めて2年目の頃、都内の古いマンションに引っ越した。駅からは少し遠かったが、家賃も安く、部屋も広くて満足していた。 入居してから1週間ほど経ったある夜、午後11時を過ぎたころだった。突然、「ピンポーン」とインターホンが鳴った。... -
ぬいぐるみ
俺の妹は、小さい頃から同じぬいぐるみを抱いて寝ていた。白くてふわふわの犬のぬいぐるみで、名前を「シロ」とつけて可愛がっていた。 どこに行くにも一緒で、寝るときも食事のときも、常に隣にいた。幼稚園のころから中学に上がるまで、妹にとっては“家... -
シェアハウスの地図
大学を卒業したばかりの春、俺は東京で就職が決まり、都内の格安シェアハウスに住むことになった。築古の一軒家をリノベーションした物件で、全部で5人の住人がいた。 家賃は安く、個室もあり、共有スペースにはキッチンとシャワーがあった。住人同士の交... -
赤い手形の部屋
大学4年の春、就職も決まり、最後の学生生活を楽しむために、友人3人と一緒に旅行に出かけた。行き先は山奥の温泉地。旅館ではなく、安く借りられる古民家風の一軒家に宿泊することにした。 その家は、木造で築年数が相当経っていたが、風情があり、雰囲気... -
鍵のかかった部屋
大学時代、俺はアパートの2階に住んでいた。古い建物だったが家賃が安く、大学からも近かったので即決した。 ある日、バイトから帰ってきて部屋に入ると、何か違和感を覚えた。部屋の空気が重い。匂いも少し違う気がした。 部屋のドアはきちんと施錠されて... -
扉の向こうの男
社会人1年目の夏、俺は安アパートで一人暮らしをしていた。築40年を超える木造のアパートで、2階建ての4世帯。風呂もなく、トイレは共同。 家賃は安いが、天井や床が薄く、隣の生活音が筒抜けだった。 ある晩のこと。深夜2時を回っても眠れず、スマホを眺... -
呼ばれた名前
これは、大学時代に山奥のロッジに泊まりに行ったときの話だ。仲の良い友人4人での小旅行。季節は秋。紅葉が美しい場所で、バーベキューと星空を楽しもうという計画だった。 ロッジは古かったが、雰囲気があり、夜になるとあたりは完全な闇に包まれた。携...